第164話「王貞ハール、天上」の巻

 ねぇキミ、聞いてくれてる?
 あたいね、不意に思い出したお言葉があったのよね。うちのガッコの二十九先生って方はさ、受け持ちの音楽以外はからっきしなんだけど、特に国語は壊滅的なんだけど、それでもたんまぁ〜に為になる事をおっしゃるの。その内のひとつが“それぞれドラマがあるの、千差万別”ってお言葉。逆に「王様ゲーム」さ読みながら作者・伸明はナニ考えてんの?って思ったの。主人公・伸明だけが安全圏で、あとはバッタバッタ死んでっちゃう。感情も個性も持たされづに、ね。下手すりゃ殺す為の頭数って感じだもん。
 作者の死生観も気になる所よね。どんなザマにも生と死を主題にした小説でさ、主人公は生き残る事を約束されてるからいーわよ。亡くなった同級生にお線香をあげながら、「ぶっだんのまぇで、ほのかにかぉる、せんこぉが、ここちょかったっ!。」なんて呑気なモノだわ。他にも「ひとりでも、ぉ〜くの、ともだちを、たすけたぃ、ぃっしん」を持ってるクセに「しにゅくともだちに、なぐさめのことばすら、ぉれは、かけなかった。」とかさ。さらには「のぶぁきは、しんだょぉに、ふかぃ、ねむりにっぃた。」なんてさ、絶対イケない表現よ、「死んだ様に」て。彼がノウノウと眠る事を読者に伝える必要も無いと思うけど、「死んだ様に」だけはほんと駄目。
 ほいで、最も引っ掛かったのは、友理奈が作ったカレーを伸明が食べる件(くだり)。ヒロインは料理が下手ってのはある種のセオリーみたいになってるけど、それを表わすのに「ゅりなの、っくった、カレ〜?。たべてたら、しんでたょなっ!?w。」ってセリフは何なのさ! 不謹慎もここに極まれりよ。そのあとにはコメデー調のヤリ取りがあったからには、「ゎらぅ、ところだょっ!。」って心から思って作者は書いたんぢゃない? でもさ、ほんの数ペーヂ前には、クラスメイツを失って哀しみに暮れる伸明の姿が描かれていたの。そんな子がおいそれと「死」をクチにする? 少なくとも「死」をギャグにはしないと思うわ、まともな神経の持ち主なら。


 


 「20世紀少年」の劇中歌「ボブ・レノン」や真島昌利さんの「カレーライスにゃかなわない」が示す通り、カレーは幸せの象徴よ。カリーにそうでなくとも、こと日本においてカレーと「死」を直結させるなんて許されないわ。
 んで、ちょっと確認すんのがシンドくなって来たからウロ覚えでゆーけど、やっぱり亡くなった同級生のご家族に伸明が思いを馳せて、「りょぉしんは、どんなしんきょぉ、なんだろぉ? そぉぞぉが、っかなぃ。」とか書いてたけど、「なら書くな」ってお話よね。そこであたいはハタと思ったの。所々に見受けられる「ざまぁ〜ねぇ〜ぜっ!。」とか「ぁ〜〜〜っ、くそぉっ!。」とかに代表される品の悪い口語はさ、ナマの若者言葉ってゆーより、作者の素の部分なんぢゃん?って。そんな品性お下劣っぷりをにべも無く世間に発表してしまった伸明の、その両親はどんな心境なんだろう? 想像がつかない。ならゆーな。
 あと、事の発端でもある命令1でのクラスメイツ同士がチューするシーンで、周りがはやし立てる「ブラボ〜ッ!。」とかさ、端々にニヂミ出るセンスの古さ? 得も云われぬ気恥ずかしさに囚われたわよ。砂浜で「くそったれがぁ〜っ!。」とか、熱さのセンスも青春マンガだよ、昭和時代の。途方に暮れて池へ石さ放るなんてシーンもあったけど、そんなの「ヤリキレナイ川」でしか見た覚え無いもん。オリラジの。
 伸明がさ、作家を目指したのは勝手よ。でも現状でデビューするのは「文学」に失礼だったってあたいは思うな。これはマンガのお話になるけど、今や野球マンガの神様みたいな水島新司センセも、作画がおぼつかなかった駆け出しの頃は野球マンガを描かなかったって聞いた覚えがあるわ。ご自身が愛する野球に失礼だからって。
 そこで、伸明よね。文学への愛が、彼にはあるのかしら? 作品から見えて来たのは自己愛だけだったわ。……そりゃあ誰だって自分はかわいーわよ。あたいだってそうさ。ふつーにしててもかわいーけど、ヅボンを脱いだら尚更かわいーわ。知ってるくせにぃっ。で、伸明はナニを志して小説を書こうと思い立ったのかしら? 伸明に影響を及ぼしたモノは何なのよ? さしあたって「王様ゲーム」だけで云えば、「一般になぢみの深い遊びが、多くの命を奪う事につながる」、そしてその様子をつづる文章がガッタガタ。これはもうヅバリ山田悠介キュンの「リアル鬼ごっこ」そのモノよね。


 


 あと個人的に「読みづらかった」って事で云えば、森見登美彦センセも思い出したの。森見センセのご高名は存じ上げてるわよ。そんなお方の文学を理解デキない自分が恥ずかしくってこれまで云えなかったけど、羞恥心=快感って思える様になった今なら云えるわ。あたいって駄目な男ね。森見登美彦の世界へ、あたいは入れないみたい。


 


 そげーなあたいが思うにね、「王様ゲーム」は文壇へ中指を突き立てるが如き駄作だったわ。いーえ、敵意ありきの中指なら意味もあるわよ。でも伸明のそれは、意味も知らずにピース代わりに中指をそびえ立てた写真をWEB上へ公開する若者≦馬鹿者を目にした様な不快感が残ったのよね。
 飽くまで本書の帯によるけど、「シリーヅ30万部突破!」「映画化決定!」そして「累計3600万閲覧数を記録した超絶ホラー小説」。こんなのを今日日(きょうび)の若者は嬉々として読んでるのかしら……て事はよ、いつの日か伸明から影響を及ぼされた世代、云わば「伸明チルドレン」が現れるって訳よね……日本文芸界の行く末を案じる他ないわよ。この場合「行く末」ってゆーより、「末路」って云った方が適切かしら。
 あたいだったらさ   酔っ払いの妄言だって笑い飛ばしてくれて構わないわよ。
 「王様ゲーム」を読んでて途中っから思ってた事なんだけど、「奇っ怪な事件が起こって同級生が次々に死んでく」ってモチーフを小説にするとした場合、あたいだったらどんなストーリーにする☆カナ?って考えてた訳。何でかってゆーと、作者にあたいと同じイルネス(病的なモノ)を感じたの。「根暗」って病気。彼とあたいは同級生っつったって接触が無いけぇ分かんないけど、でもさ、作者・伸明が主人公・伸明どおりの好男子だったらホラー小説は書かないって思うのね。よしんば書いたとしても、実名の自分を主人公にはしないと思うわ。
 結局は全編を通して、作者が抱える「こうなりたい、こう見られたい」って欲求の表れだったとしか感じられなかったのよね。で、その手段がとんでもなく幼稚なモノだった、と。「ファルスメモリー・シンドローム」っつーんだっけ? 嫌な記憶を消して、嘘っぱちの楽しい記憶にすげ替えるってゆー。それを自ら能動的に作り上げた結果ぢゃないかしら?って思ったのね。ちなみにその「ファルス〜」をあたいが知ったのは「浦安鉄筋家族」よ。
 きっとくまいちょーを好きなのよね、伸明は。したっきゃ「ファルス」の一環として自分がくまいちょーに愛される物語をつづった、と。でもふつーデキないわよね。「ゅりなは、こぉゅった。『のぶぁきが、だぃすきっ!。』」なんて自分でワープロ叩くのよ? カユくってカユくってたまらないわよ、お股が。
 やっぱりあたいは伸明を根暗い奴だと思うわ。そんな子が自分を主人公ないしモデルにして小説を書くんならさ、自分をさも素晴らしい人間みたいに書くのって、すんごく精神衛生上よろしくないって思う訳。
 自分の駄目さ加減をさ、そのまんまブチ撒けりゃいーぢゃん。
 自分の弱さを認めたらいーぢゃん。
 あたいが小学生の時に読んだプロレスのマンガの中で、藤原喜明組長がこんな事をおっしゃってたわ。
 “勝つ事を知って、負ける事を知らなきゃ男ぢゃありません”
 もう20年以上も前の記憶だからアヤフヤだけど、ある浪曲からの引用らしいのね。あたいの場合、「負ける事だけを知っていて、勝つ事を知らないから男ぢゃありません」みたいな感じで30越えちゃったけど。でもね、自分の弱さを認める強さ、みたいな事をあたいは云わない。ただね、自分の弱さをさらけ出すのって、楽になれるのよ。生きやすくなるのよ。
 お話が横道にそれちゃったけど(と、自身のパンツの横からハミ出ているモノを元に戻しながら)、あたいだったら主人公はこうゆー設定にするわさ。愛されたいけど、嫌われるんが恐いけぇ、自ら進んで接触は図らない。自分を愛してくれない奴なんか死んじゃえって思ってる。要するにみんな死んじゃえって常々思ってる。そんな根暗で、卑屈で、無駄にプライヅばっか高くて、人間ギライなクセにオンナ好きで……あらヤだ、中学時代のあたいそのまんまぢゃない。
 中学ん時に出会って、あたいの人生を変えてくれた筋肉少女帯のアルバム「サーカス団、パノラマ島へ帰る」に、「詩人オームの世界」ってお唄があったの。端的に云えば、迫害された詩人が「いつか世界を燃やしてヤル!」って怨みに猛ってるんだけど、結局そんな事は叶わないまんま孤独に死んで行く、そんな内容だったわ。
 ほいで、あたい思ったの。伸明が実際は迫害される側……どころか、迫害はおろか何にもされない側の人間で、そんな彼が精一杯の妄想を働かせて、誰からも愛される主人公、そして彼以外の誰もが死んで行ってしまう物語を書き上げたんだとしたら、ちょっとかわいーってさえ思えて来たのよね。幼稚は幼稚よ。でもオーケンがさ、学生時代の同級生が作った♪あゝぼくは年下、きみは年上〜みたいな曲を聴かされて、そん時は「下らない」って思ったんですって。だけどある程度の年になってフッと思い返してみると、「ストレーツでいーんぢゃん?」って感じたんですって。
 何か色々な思いが込み上げて来ちゃっててさ、何ならもういっぺん読み直してみようかって思ってるの、「王様ゲーム」を。伸明はあたい側の人間だって踏まえた上で。
 あら? キミ、寝ちゃってた? そうね、疲れたわよね。ここ何日か色々あったもん。うふふっ、かわいー寝顔。どげーな淫夢を見てるのかしら? でも、変なお話よね。ナニからナニまで男ムキ出しのあたいがこんな調子だっつーのに、ベッヅの上ではキミがオンナ役だなんてさ。ひと様から見たら、おかしなふたりよね。何でもいーわ、あたい幸せよ。おやすみ、キミオ(と、うなぢにネッチョリとキスをする大造。夜特有の青ヒゲが刺さったのか、寝息まぢりに『痛かろうが』と喜美雄・56才)。
 ……あぁんっ!?(ビクッ!) いつヴァイブしてもいー様に、ケータイを股間に仕込んでたのを忘れてたわぁんっ!(ビクッ! ビクッ!) あ、メールね。

 8/29 00:00
 送信者:王さん
 件名:王さんゲーム


 *命令5:男子出席番号58・柾木大造


 もう読みおわった☆カナ?<王ゲー。
 そしたらお別れなんだよね。
 それもちょっとさびしいけどさ……
 ……用が無くっても、メールしていー?


 ぢゃあ気を取り直して、最後の命令、ね。
 大ちゃんさ、ブログとかヤッてるんでしょ?
 したら書評とまでは云わないけど、
 読書感想文をそのブログに書いてねっ★


 ちゃお(^-^)ノシ


 これにてゲーム終了。